こんにちは、T-アレックスです。
このブログでは、社会人が働きながら税理士試験を合格するための情報をお伝えします。
前回は、税法の法律体系や通達について書きました。今回は、財務諸表論の理論についてのお話です。学者でも会計士でもないので、受験経験者の雑感としてお読みください。
予備校の財務諸表論の講義では、税法と同様、初回に理論体系などの説明があると思います。初学者にとっては初回の講義で全体像を理解するのは難しいのではないでしょうか?
学習がある程度進んでから改めて頭の整理をするのをお勧めします。
1. 理論学習の目的
受験生のほとんどは、簿記を学習してから財務諸表論の学習に進むと思います。簿記は具体的な取引の仕訳や処理を学ぶので、特に何らかの実務経験がある社会人にとってはイメージが付きやすいと思います。
財務諸表論になると、急に○○原則だとか○○主義だとかアカデミックな内容となり、とっつきにくいのではないでしょうか。何のために理論を学習するのでしょうか?
私は、以下のようなことができ、専門家として1段レベルアップするために理論の理解が必要と考えています。
・適切な会計処理を選択できる
・会計処理の理由や背景を関係者に説明できる
作業者レベルにとどまるのであれば、決められた処理ができれば問題ないと思います。企業の経理部署で高いレベルの仕事をするのであれば、その会計処理を適用する理由や背景を理解し、上司・部下・関係部署・会計士や税理士などに説明する必要が出てきます。
顧客にアドバイスをする会計士や税理士にとっては、顧客の質問に対応するために会計理論の理解が必要となります。「そう決まっているから」というのでは、説明になってないですよね。
以上が、私が考える財務諸表論の理論学習の目的です。
2. 理論体系
会計理論の体系を図示すると以下のようになります。上下を逆にしている図もありますが、私は会計公準をピラミッドの頂点に置いて、下に行くにつれ詳細となる図の方が好みです。
(1) 会計公準
会計公準は理論学習の最初の方に出てきます。以下の3つがとなりますが、内容は理論のテキストなどで確認してください。
・企業実体の公準
・継続企業の公準
・貨幣的価値の公準
企業公準は、企業会計が行われるたえの基本的前提とされています。一定の社会的・経済的環境のものとで成立し、環境自体が変化すれば会計公準も変化するとされています。
会計公準は一体誰が決めたのか気になって調べてみました。ネットで調べただけなので間違いがあったら指摘してください。
20世紀前半のアメリカでは様々な会計理論の研究が行われていたようです。アメリカの学者ギルマン(Stephen Gilman)が1939年に公表した著書「会計的利益概念」(Accounting Concept of Profit, 1939)において、基本的コンベンションとして3つの命題(企業実体、貨幣的評価、会計期間)を挙げており、これが上記3つの会計公準の内容と一致しているようです。
日本ではギルマンの会計学が徹底的に研究され、戦後にギルマンの会計学を基礎に日本の会計制度の原型ができたと言われています。
個人的には会計公準のルーツが分かってスッキリしています。私は、原文を見ることを推奨していますが、さすがにAccounting Concept of Profit, 1939までは読んでいません。真偽はご自身で判断をお願いします。
(2) 企業会計原則
企業会計原則は、1949年(昭和24年)に、旧・大蔵省の経済安定本部・企業会計制度対策調査会(現在の金融庁・企業会計審議会)によって公表されました。
企業会計原則は、企業会計実務の慣習の中から、一般に公正妥当と認められる基準を要約したものとされます。法的な強い拘束力はもちませが、法令でなくても、大企業、中小企業問わず、会計上順守するべき原則となっています。
企業会計原則は、「一般原則」、「損益計算書原則」、「貸借対照表原則」の3つの原則と「注解」及び「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書」から構成されています。一般原則は、損益計算書、貸借対照表のいずれにも共通するもので、企業会計原則の中でも重要な原則となっています。
財務諸表論の学習としては、一般原則の7つの原則とその注解及び連続意見書が重要となっています。企業会計原則が公表されたのはかなり昔ですが今でも会計の原則として利用されています。
- 真実性の原則
- 正規の簿記の原則
- 資本取引・損益取引区分の原則
- 明瞭性の原則
- 継続性の原則
- 保守主義の原則
- 単一性の原則
企業会計原則については、1949年(昭和24年)に公表と古いので公式サイトを見つけることが出来ませんでした。民間のサイトでは原文を見ることができます。
(3) 企業会計基準
企業会計基準とは、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」を定めたものです。
以前は、金融庁の企業会計審議会が会計基準を策定していましたが、2001年7月に民間10団体が設立した「財団法人 財務会計基準機構」の企業会計基準委員会に会計基準の策定の機能が移りました。
米国の会計基準はFASB(Financial Accounting Standards Board)が、国際会計基準はIASB (The International Accounting Standards Board)が策定や改定を行っている。両組織とも民間の非営利団体です。会計基準の改廃を民間の非営利団体が担うことは国際標準と言えます。
財務会計基準機構の設立の経緯はこちら
財団法人 財務会計基準機構の設立について|企業会計基準委員会:財務会計基準機構
会計基準は31の基準が公表されています。(2022年1月現在)
会計基準の構成は
① 目的
② 会計基準
③ 結論の背景
となっています。
具体的な処理方法を定めた②会計基準だけででなく、③結論の背景の理解が重要となります。
税理士試験においても、③結論の背景が選択、穴埋め、記述問題などで出題されます。税理士試験の合格のためには、重要な基準についての「会計基準」及び「結論の背景」の理解と暗記が必要となります。
会計基準の策定プロセスは大まかに以下のようになっています。
①審議テーマの決定⇒②専門委員会での検討⇒③企業会計基準委員会での決議⇒④論点整理。公開草案の公表による意見募集⇒⑤会計基準の制定・改定
基本的に検討内容は公開され、意見募集も行われ「一般に公正妥当」となるよう幅広い意見が反映される仕組みとなっています。
詳細はこちらをご参照下さい。
企業会計基準等ができるまで|企業会計基準委員会:財務会計基準機構
(3) 概念フレームワーク
財務諸表論の理論学習の終盤に出てくる概念フレームワークについて記載します。
概念フレームワークとは、2004年7月(2006年12月改定)に企業会計基準委員会が公表した「討議資料」であり、企業会計基準委員会の公式見解ではありません。
- 前提や概念の体系化と将来の基準設定の指針
概念フレームワークは、日本の企業会計(特に財務会計)の基礎にある前提や概念を体系化したもので、将来の会計基準設定の指針となると期待されているものです。現行の会計基準の一部を説明できないものが含まれていたり、いまだ基準化されていないものが含まれていたりします。
- 海外の会計基準との調和
概念フレームワーク公表の背景として、財・マネー・人材など国際的な移動に対する障壁が取り払われ、共通ルールに基づく自由な取引が実現しつつあり、会計基準についても国際的な統合や調和が進められているとの現状認識があります。概念フレームワークは、海外の主な会計基準設定主体が公表した概念書と同一の構成を採用し、海外の基準設定主体との円滑なコミュニケーションに資する役割も期待されています。
- 税理士試験での出題
財務諸表論の試験では概念フレームワークからの出題も多く、概念フレームワークの理解は重要です。
テキストで学習するとともに、原文も確認してみることをお勧めします。本文は36ページとそれほどの分量ではありません。
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/begriff_20061228.pdf
3. 会計法規集
予備校のテキストでは、試験に頻出会計理論をコンパクトに解説しています。試験対策としては予備校のテキストを理解・暗記すれば十分と思いますが、より深い理解をするためには原文を当たるか、会計基準等をまとめた会計法規集を辞書的に使っても良いと思います。
講義を受けた項目について、会計法規集で確認し理解を深めるという使い方が良いのではないかと思います。
今回はここまでとなります。
よろしくお願いします。